富士市神谷にある不動尊。「不動院」として単立の宗教法人となっており、俗に「神谷のお不動さん」と親しまれている。白蛇伝説で近郷近在に知られ、毎年3月28日の縁日は家族連れなどで大いに賑わう。
不動明王は、仏教における明王の一尊。梵名アチャラ・ナータは「動かぬ守護者」を意味する。密教の根本尊である大日如来の化身とされ、空海による密教伝播で日本に広まった。当初は病気平癒などの信仰が貴族の間でもてはやされ、時代が下るにつれ武家や庶民にも浸透。いまも根強い信仰を得ている。
神谷不動院の開創は詳らかでないが、下総の成田不動(千葉・成田山新勝寺)を分祀したといわれる。
現本尊は、7cmばかりの小さな不動明王。両眼が天地眼となった憤怒の相で、右手に竜(蛇)が巻きついた倶利伽羅剣を持つ。厨子の底に「明和九壬辰(1772)二月吉日」の銘があり、神谷村の斉藤藤吉兵衛が願主となっている。
不動明王像
幸せよぶ白蛇伝説
神谷不動院には「白蛇伝説」がある。御堂裏手の岩壁の割れ目に白蛇が住まい、見た者に幸福が訪れるという。
古い信仰らしく、江戸後期の『駿河記』は「称具利伽羅不動。祠は岩窟なり。内に小蛇住り。岩の裂隙内に其貌を現す。或は金色に見え、或時は白色に見ゆ。是を神霊とす」と記す。また『駿河國新風土記』も、「不動堂 弐間半三間 尊躰は蛇なりなどあやしき説あり 境内南北五十間 東西十三間」と紹介している。
白蛇は祭典日(古くは旧暦2月28日、いまは新暦3月28日)に姿をあらわすと伝えられ、参拝者は一様に割れ目をのぞき、幸せの使いをさがす。
岳南鉄道神谷駅から北へ徒歩10分。根方街道を横切り、神明宮の脇をぬけ、東名高速のガード下をぬけると境内だ。周りは茶畑が目立ち、北をのぞむと第二東名と愛鷹山尾根の向こうに富士山が顔を出す。いちじるしく景観を損ねている高速道路がまことに惜しい。
東名高速の騒音を背に、真っ赤な両部鳥居をくぐる。木陰の参道はうす暗く、右手には大きな岩盤が屏風のように続いている。50mばかり歩くと右手に鳥居が現れ、そちらゆけば金刀比羅宮に至る。由緒は分からないが、境内社だろうか。
鳥居
参道
境内の深部に御堂と祠がある。御堂は祭典や直会などを行い、祠は祭典時、不動明王を開帳する。現在の不動明王像は、明和9年(1772)に奉納された約7cmの小像。天地眼の憤怒相で、右手に竜(蛇)が巻きついた倶利伽羅剣を持ち、背に火焔を負う。
御堂の後ろは切り立った岩盤となっており、そこに日本刀でけさに斬ったような深い割れ目(幅5cm、長さ2m)がある。毎年3月28日の祭礼が近づくと、神の使いである白蛇がすがたを見せると伝えられ、これを見た者には幸せが訪れるという。
境内深部に御堂と祠
白蛇が住まうという割れ目